バニラエアの車椅子問題。スタッフを責めるな!

マニラ旅行記の途中ですが気になるニュースがあったので。

6月5日、バニラエアで奄美空港から関西空港まで搭乗予定だった車椅子の乗客が、スタッフの支援なく階段式のタラップを腕の力で自力でのぼることになったらしく、それに対してバニラエアが謝罪した、という一件がニュースになっています。
俺もかつて空港で働いていましたが、車椅子のお客さんの搭乗で悩むこと、困ることは何度かありました。
まず航空会社では車椅子の乗客を3種類にわけています。
WCHR(Wheelchair Ramp)
機内や階段は自分で歩くことができ、長距離歩くような空港ターミナル内でのみ車椅子を必要とする乗客
WCHS(Wheelchair Steps)
機内ではアシストが必要だが、階段の上り下りは自身ではできない乗客
WCHC(Wheelchair Cabin)
俺はWheelchir Cabinって記憶してるけど、ネットみるとWheelchir Carryって書いてあるサイトも。
自身では機内通路も移動できないし、階段の上り下りもできない乗客
WCHRの方は特に問題になることはないと思いますが、空港職員が悩むのはだいたいWCHCで同行者がいない方。
今回ニュースになっている乗客は、自力での階段の上り下りは少なくとも航空会社が想定しているレベルではできないようなので、たぶんWCHSかWCHCのどちらかだと思われます。
WCHSの方が問題になることはあまりないのですが、今回の場合、奄美空港に車椅子の乗客を昇降させるリフトがなかったらしく、それで問題になったようです。
 
ではそもそもなぜ航空会社が車椅子の乗客の搭乗を拒否する場合があるのか。
それは、緊急時に自力での脱出が困難、かつ、その方が動けないことで周囲の乗客の脱出も困難になることが想定されるから、です。
緊急時、客室乗務員はそれぞれ脱出用のドアが割り当てられ、基本的になすべき役割が決まっています。
そのため、平常時のように乗客1人1人へのケアはできず、乗客は乗務員の指示に従って自力での脱出が期待されます。
航空会社によって、また路線によっては、ドア割り当てのない「余剰の」乗務員がいることもありますが、昨今、航空会社も経費削減のため必要最低限の乗務員編成で飛んでいることが多いと思います。
そうすると、自力での脱出が困難と思われる同行者のいないWCHCの方の搭乗をどう扱うか、という問題が出てくるわけです。
基本的に、最近はそれでも搭乗拒否はあまりないと思います。
アメリカ中心に「困難を持つ乗客を差別してはならない」というルールができ、それが広く知られるようになったためです。
しかし、それでも中には「WCHCの同行者なしでの搭乗は不可」とマニュアルに定めている航空会社もあります。
例えば、ジェットスターのウェブサイトには一人で搭乗できる条件として
「ご搭乗中、必要に応じて、一人で化粧室を使用できる」
などなどの項目がリスティングされています。
航空会社は、安全に関する規定は本当にあほみたいに細かくマニュアルに規定されています。
空港職員が参照すべきマニュアルは広辞苑みたいな分厚いマニュアルが何冊も何冊もあるのですが、安全に関するものだけでも複数冊にわたり、トータル1000ページは超えていました。
しかも、英語でね。。。(日系の航空会社はたぶん日本語もあるんだろうけど、、、外資だったんで)
で、地上職員はみな、接客教育以上に時間をかけてマニュアルの中身を叩き込まれます。
とにかく「安全」と名の付くものが最優先、次に「定時」、その次にやっと「サービス」です。
今回のニュースに際して「ただ見ていた職員は人間としてありえない」的なコメントを多く見ますが、もしバニラエアのマニュアルに「階段昇降をアシストする設備がない空港では、安全のためWCHS/WCHCの乗客は同行者なしでは搭乗できない」と規定されていたとしたら、職員がそれに反した対応をすることはかなーーーーーり困難だったと思います。
航空会社の地上職員、特に日本で働く地上職員は
「マニュアルはマニュアルだけど、お客様のためにはフレキシブルに対応しなさい」という教育は受けていません。
「マニュアルに沿って、我が社の顔としての対応を心がけなさい」と教育されます。
客室乗務員にしても操縦士にしても整備士にしても、航空会社はとにかくマニュアルマニュアルマニュアルマニュアルの世界。
それも仕方ないと思います。
とにかく安全が第一で、かつ規模が大きな産業。
マニュアルに反してスタッフがフレキシブルな対応をしだしたら、確実にヒューマンエラーのリスクを増やします。
「今日はVIPが乗っているから、マニュアルではこの部品を交換しないと飛ばせないと規定されているけど、次のフライトまで持ち越そう」って整備士が判断してしまう、とかね。
今回のようなニュースに際しては、スタッフの対応を批判、非難するよりも、その航空会社のマニュアルがどのように規定しているのか、そしてそれが適切なのかを議論する必要があると思います。
だから、バニラエアもその時の対応について謝罪するより先に、自分たちがどのように規定していたかを明らかにすべきだったと思います。
その上で、対応が正しくなかったと謝罪するなら、社内規定が間違っていました、なのか、社内規定に反してスタッフが間違った対応をしてしまいました、なのか。
なんでこんな地上職員をかばうようなことを書くのかと言うとね、本当に航空会社の地上職員って、日々何百人、何千人の乗客に囲まれながら
「この乗客を乗せたら安全上の問題になるかも、乗せなかったら訴訟になるかも、誰かに判断を仰いでいたら飛行機がお前のせいで遅延したと問題になるかも、自分で判断したら勝手な対応をしたと問題になるかも」と八方ふさがりな中、必死に必死に考えて頭が割れそうになりながら最善だと思う判断をしているんです。
それがわかるから、つい、スタッフの対応を責めるような報道に疑問がわいてブログに書いてしまいました。

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